① 間質性肺疾患(リウマチ肺)
自分の免疫細胞が肺を攻撃してしまった結果、肺が硬くなってしまって線維化してしまう疾患です。肺が膨らみにくくなってしまう、息切れや息苦しさを感じる、空咳が出るなどの症状があります。一度進行し線維化してしまった肺は治療を行っても元に戻ることは難しいと言われています。関節リウマチの呼吸器合併症は,経過の早さと重症化の危険性から早期診断,早期治療が重要です。治療中に前述の症状を自覚する場合には放置せず,なるべく早めに当院あるいは当院提携の呼吸器内科専門医にご相談ください。
② 呼吸器系感染症
関節リウマチには、前述の間質性肺疾患以外にも細気管支炎や気管支拡張症といった気道病変の合併が多いことが最近報告されており,細菌などによる感染の原因となりうると言われています。またステロイドや抗リウマチ薬による免疫抑制のため,経過が急速で重症化しやすいため注意が必要です。また本来は病原性の少ないカビ(真菌)やウイルスによる日和見感染症や結核や非結核性抗酸菌症(肺MAC症)などの感染症を発症することもあります。関節リウマチの呼吸器合併症は,経過の早さと重症化の危険性から定期的検査、早期診断、早期治療が重要です。治療中に呼吸器症状の出現や発熱がみられた場合には放置せず,なるべく早めに当院あるいは当院提携の呼吸器内科専門医にご相談ください。
③ MTX関連リンパ増殖性疾患
関節リウマチ自体の合併症としてもリンパ腫が起きてしまうことがありますが、メトトレキサートをはじめとする免疫抑制剤治療中にリンパ節が腫れるリンパ腫(リンパ増殖性疾患)が起きることがあります。60%以上の例で薬剤を中止することでリンパ腫は消退するとされていますが、消退しない場合は精密検査や治療を要する場合があります。
リンパ節は首や脇の下などに存在しますが、この薬剤に関連するリンパ増殖性疾患は、咽頭や扁桃、消化管、肺といったリンパ節以外の臓器でもリンパ組織の増殖を起こすことが多いということが知られています。注意すべき症状としてはリンパ節の腫れが典型ですが、リンパ節以外の皮膚や喉の腫れや、発熱・寝汗・体重減少といったこともリンパ腫では起こり得ます。メトトレキサート内服中にこれらの症状が出現した際にはご相談ください。
④ 骨粗鬆症
リウマチの活動性が高い状態が続くと、骨がもろくなるスピードが一般の方より速くなります。いわゆる骨粗しょう症です。女性は元来骨粗しょう症なりやすいと言われており、特に注意が必要です。
骨粗しょう症になると転倒などで簡単に骨折してしまいます。
大腿骨や脊椎などを骨折すると、歩行に重大な支障をきたすだけでなく、寝たきりになり誤嚥性肺炎などを引き起こすこともあります。
脊椎と大腿骨の骨密度値や脊椎と大腿骨のレントゲンや骨代謝マーカーの定期的検査が重要です。
⑤ 肝機能障害
メトトレキサートの服用により肝機能障害が起きることがあり、特にGOT(AST)やGPT(ALT)といった数値が上昇することがあります。肝機能障害が軽度の場合は自覚症状はありません。そのため定期的に血液検査でチェックを受けることが重要です。稀ですが重度の肝機能障害の時は倦怠感を自覚することがあります。倦怠感が強いときは早めに当院にご相談ください。
⑥ アミロイドーシスと腎機能障害
慢性炎症による全身へのアミロイドという物質の沈着によって起こります。消化管に沈着した場合慢性下痢や消化不良、吐き気、腹部膨満感などを認めます。腎臓に沈着すると腎機能低下、腎不全を引き起こすことも。その他にも心不全などの原因になることがあります。
⑦ 造血機能障害
メトトレキサートの服用により骨髄で作られる白血球やヘモグロビン、血小板が減少することがあります。これらは自覚症状に乏しく、何となく体調が優れないなどの自覚症状で検査して発見されるといったことがあります。骨髄抑制は、メトトレキサートの濃度上昇により引き起こされるとされています。高齢であることや腎機能障害があること、多数の薬剤を併用していることなどが骨髄抑制のリスクであるとされています。脱水などが原因で、体内のメトトレキサートの濃度が上昇してしまわないように注意が必要です。メトトレキサートを服用する際に体調が優れないなどの不調を感じたら、無理に服用はせず当院にご相談ください。
⑧ 心筋梗塞や脳梗塞
リウマチによる慢性炎症が長く続くと、血管にも炎症が及ぶことがあり、結果として脳梗塞や心筋梗塞といった血管障害のリスクが増大することが知られています。LDLコレステロール(悪玉コレステロール)や中性脂肪値が 高い方は要注意です。LDLコレステロールは生活習慣の見直しや有酸素運動などで改善することもありますが、体質的になかなか改善しない方も多いようです。このような場合は、コレステロール値を下げるような内服薬を必要とすることもあります。
⑨ 貧血
リウマチによる慢性炎症によって、貯蔵鉄の利用障害が起きてしまい、結果として鉄欠乏性貧血になります。慢性の貧血が長く続くと息切れや倦怠感などといった症状としてあらわれることもあります。また心臓にも負担がかかる結果心不全の原因になることもあります。
⑩ 口内炎・食思不振・吐き気・嘔吐
メトトレキサートの血中濃度上昇により嘔吐や食思不振といったさまざまな消化器症状を引き起こすことがあります。メトトレキサートを分割して服用することで症状が軽減されることがあります。またその他の消化器症状として、口内炎など粘膜が障害されることもあります。葉酸(フォリアミン®︎)を併用したり増量することにより対処できることがありますが、症状がひどく改善しない場合にはメトトレキサートを中止します。
最近、メトトレキサート(メトジェクト)の皮下注射製剤が発売されました。注射薬なので胃や十二指腸といった消化管を通過せずに体内に吸収されます。そのため、これらの消化器症状が軽減されるのではないかと期待されています。
⑪ リウマチ治療によるB型肝炎ウイルスの再活性
以前に肝炎をに罹患し、治療にて肝炎が治ったと考えられていた患者さんの中で、がんの化学療法や免疫抑制療法をおこなうと、稀にB型肝炎を発症してしまい重症化する方がいらっしゃる。ということがわかってきたのです。(B型肝炎の再活性化といいます。)
ごく微量のB型肝炎ウイルスが体に残ってしまうことが原因といわれています。そのために、本院では昔にB型肝炎を患っていないかのチェックとして、HBs抗体・HBc抗体を調べるようになっています。
では、HBs抗体・HBc抗体のいずれかもしくは両方が陽性だった方は?
1. 今まで記憶になかったとしても、昔に肝炎にかかったことがある。
2. 医療従事者で、B型肝炎ワクチンを接種した。
などが考えられます。
これらの方は、あくまでも昔に肝炎を患ったというだけで、普通に生活するには、まったく問題ないですし、他人に言う必要もありません。家族にうつる心配もありません。がん治療などと比べて、リウマチ治療によるB型肝炎の再活性化は少ないといわれてはいますが、まだ日本では調査中でデータがありません。ウイルスが活発になり肝炎を発症してしまう場合には、早期に専門治療が必要になるため、定期的にHBV-DNAというウイルス量をみる採血検査をおこなっていきます。
万が一、HBV-DNAが陽性になったときには、肝臓内科専門医をご紹介の上、協力して診療していきます。
不明点、ご相談がありましたら、いつでもご質問ください。